診療記録036:いつか、ふたりに話す物語 診療記録:人物記録・対話・非臨床
午後の陽が斜めに差し込む診療所の一角。書類棚を整理していた私は、一通の封をされていない封筒に目を留めた。 黄ばんだ封筒の表には、昔の私の筆致で「お父さん・お母さんへ」と書かれていた。 ──双蛇党の従軍衛生兵としてカルテノ […]
続きを読む午後の陽が斜めに差し込む診療所の一角。書類棚を整理していた私は、一通の封をされていない封筒に目を留めた。 黄ばんだ封筒の表には、昔の私の筆致で「お父さん・お母さんへ」と書かれていた。 ──双蛇党の従軍衛生兵としてカルテノ […]
続きを読む朝の診療所は、薬草の匂いより先に布の音がした。包み布を畳む音。替えの肌着を揃える音。小さな荷が、ふたつ分ある音だった。 出産から七日。彼女は椅子に座っていた。動きはまだ慎重だが、もう“恐る恐る”ではない。腕の中のひとりを […]
続きを読む夜半、扉を叩く音がいつもより短く、強かった。開ける前から、呼吸の乱れが聞こえている。 彼女は夫に支えられて入ってきた。寝巻きの裾が急いで羽織った外套から少しのぞいている。歩けてはいる。だが、歩幅は狭い。ひと波くるたび、足 […]
続きを読む扉が開く前に、ゆっくりした足音がした。急ぐ歩幅ではない。お腹を揺らさないよう、一歩ずつ確かめるような歩き方だった。 入ってきた彼女の肘を、夫が半歩後ろから支えている。妊娠38週。お腹はもう、抱えるというより前へ張り出して […]
続きを読む澄んだ空気が満ちる、森の外れの丘。ここまで共に歩んだ仲間たちが輪になって見守る中、竜騎士は槍を握り、深く息を吐いた。 「……行くッス」その瞳は、もう恐怖に囚われてはいなかった。 地を蹴る。走り出す足取りは力強く、軽やかに […]
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