診療記録047:革は語らず、身体は告げる 診療記録:産婦人科
診療所の扉が開くより先に、匂いが入ってきた。なめし革の甘苦さと、油の温い残り香。雨に濡れた外套から立ちのぼる湿り気に混じって、それは確かに“仕事場の匂い”だった。 現れたのはラヴァ・ヴィエラの女性。耳の先は外套のフードに […]
続きを読む診療所の扉が開くより先に、匂いが入ってきた。なめし革の甘苦さと、油の温い残り香。雨に濡れた外套から立ちのぼる湿り気に混じって、それは確かに“仕事場の匂い”だった。 現れたのはラヴァ・ヴィエラの女性。耳の先は外套のフードに […]
続きを読む扉のノックは控えめだった。開くと、甘いミルクの匂いと、洗い立ての布の匂いが一緒に入ってくる。湯気のない温かさ。抱えた体温の匂いだ。 顔を覗かせたのは、以前双子の出産を終えたララフェルの夫妻だった。出産から二ヶ月半。今日は […]
続きを読む夕刻、診療所の扉が勢いよく開いた。 開いた、というより――誰かが半分ほど倒れ込みながら押し開けた。 「先生! こいつ、たぶん食中毒です!」 担ぎ込まれてきたのは、ミコッテ・サンシーカーの若い冒険者だった。年齢は十九。まだ […]
続きを読む扉が開く前に、道の匂いがした。乾いた土、荷紐の麻、香辛料の甘い粉。布の端に、雨避けの油の匂いが薄く残っている。“歩いて暮らしている人”の匂いだった。 入ってきたのは若い夫妻。二人とも口数は多くない。けれど視線はまっすぐで […]
続きを読む扉を閉めると、診療所の音が一段落ちた。紙の擦れる音と、ペン先だけが残る。 「先生。座ってください」 シシスの声は淡い。けれど、逃げ道はない。 私は椅子に腰を下ろした。下ろした瞬間、背中が少し丸くなる。 「……猫背」「言う […]
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