診療記録025:痛みと悔しさの狭間で
- 種族
- ヴィナ・ヴィエラ / 男性 / 25歳
- 職業
- 冒険者
- 経過
- 右踵腱断裂に対する組織修復術後
- 主訴
- リハビリ開始後の強い痛みと精神的疲労
- 処置
- 歩行補助具を用いた荷重訓練継続。疼痛緩和の霊薬を少量追加処方。精神的フォロー。
「っ……痛っ……!」
杖に体を預けながら足を踏み出した瞬間、彼の顔が苦痛に歪む。
三歩目で立ち止まり、額から滴る汗を袖で乱暴に拭った。
「……もう無理だ。跳躍どころか、歩くことすらできない……」
声は小さく震え、悔しさと情けなさが入り混じっていた。
私は落ち着いた声で告げる。
「今は“歩く”ことが跳躍への第一歩です。焦らなくていい」
だが彼は俯いたまま、かすれた声をこぼす。
「……竜騎士なのに、歩くだけで痛いなんて……みっともない」
シシスが横から口を挟んだ。
「泣き言を言うのは結構。でも、その一歩を放り出したら、竜騎士じゃなく“ただの怪我人”のままですよ」
鋭い言葉に、彼の目が一瞬揺れた。
けれど反発する力はもう弱く、ただ苦い笑みを浮かべただけだった。
それでも彼は、震える足をもう一度前に出した。
一歩。二歩。――その歩みは遅く、不安定で、痛みを隠しきれてはいない。
「……次の訓練も……やれるかどうか……」
最後にそう呟いた声は、かすれていた。
私的記録:
彼はまだ立っている。だが、心は確かに削られ始めている。
泣き言の裏にあるのは、絶望と諦めの影。
――次の一歩を踏み出せるかどうかは、ここからが正念場となるだろう。
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