診療記録026:折れた言葉、沈む影

種族
ヴィナ・ヴィエラ / 男性 / 25歳
職業
冒険者
経過
右踵腱断裂に対する組織修復術後。リハビリ開始後、一週間。
主訴
リハビリ中断。強い喪失感と意欲低下。
処置
再診予定に姿を見せず。宿に訪問し状況確認。心理的フォローを試みるも拒否的態度。

約束していた再診の朝。
診療所の扉は、いくら待っても開かなかった。

「……来ませんね」
シシスが時計を見やり、低く呟いた。

仕方なく、私は竜騎士の宿を訪ねることにした。
扉を叩くと、しばらくの沈黙の後、くぐもった声が返ってきた。

「……放っといてくれ」

扉越しでも、その声に張りはなく、投げやりな響きが伝わってくる。

リハビリを休めば、その分だけ回復は遠のきますよ」
そう告げると、内側から苛立ちを含んだ声が返った。

「……わかってる! わかってるけど……もう無理なんだよ!
歩くだけであんなに痛くて……跳べるわけないだろ!」

それはこれまでの“敬語混じりの竜騎士”の声ではなかった。
若者の素の絶叫。
自分への怒りと、どうしようもない絶望が混ざった、むき出しの言葉だった。

扉を隔てて立ち尽くす。
今はこれ以上の言葉を投げても、彼の胸には届かないだろう。

「……わかりました」
そうだけ告げ、私は静かにその場を離れた。


私的記録:

竜騎士は空を翔ける者。
その翼を折られた青年の心が、どれほど深く沈んでいるか――痛いほど伝わった。

けれど、沈んだ心は再び浮かび上がる日がある。
今はただ、彼がその時を迎えるまで、灯りを消さずに待ち続けよう。


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