診療記録032:再び空を裂く
澄んだ空気が満ちる、森の外れの丘。ここまで共に歩んだ仲間たちが輪になって見守る中、竜騎士は槍を握り、深く息を吐いた。 「……行くッス」その瞳は、もう恐怖に囚われてはいなかった。 地を蹴る。走り出す足取りは力強く、軽やかに […]
澄んだ空気が満ちる、森の外れの丘。ここまで共に歩んだ仲間たちが輪になって見守る中、竜騎士は槍を握り、深く息を吐いた。 「……行くッス」その瞳は、もう恐怖に囚われてはいなかった。 地を蹴る。走り出す足取りは力強く、軽やかに […]
「跳べただけじゃ……戦えない」彼は静かに呟いた。彼の視線は槍の穂先に落ちている。 確かに、小さな跳躍は成功した。けれど竜騎士の真骨頂は、戦場で仲間と共に敵へ挑むこと。その舞台に戻るには、まだ大きな壁があった。 そこで私は […]
「今日は、跳躍の動作に挑戦してみましょう」そう告げると、彼の肩が大きく震えた。 広場に立つ彼の足は固く、膝はわずかに笑っている。走ることはできた。だが“跳ぶ”となれば別だ。それは彼にとって誇りそのもの――そして、恐怖その […]
診療所の裏庭に、木漏れ日の差す小道があった。今日はそこで、彼に軽い走行訓練を試みてもらうことにした。 杖を手放し、両足で地を踏む。その姿は一見、元の竜騎士の凛々しさを取り戻したかに見えた。 しかし――。 「……怖い」 一 […]
先週、竜騎士は診療所の敷居をまたがなかった。リハビリを放棄し、心まで折れたまま、部屋に籠もっていたという。 そんな彼を診療所へ連れてきたのは、同じパーティのナイトだった。逞しい腕に半ば引きずられるようにして現れた竜騎士は […]
約束していた再診の朝。診療所の扉は、いくら待っても開かなかった。 「……来ませんね」シシスが時計を見やり、低く呟いた。 仕方なく、私は竜騎士の宿を訪ねることにした。扉を叩くと、しばらくの沈黙の後、くぐもった声が返ってきた […]
「っ……痛っ……!」 杖に体を預けながら足を踏み出した瞬間、彼の顔が苦痛に歪む。三歩目で立ち止まり、額から滴る汗を袖で乱暴に拭った。 「……もう無理だ。跳躍どころか、歩くことすらできない……」声は小さく震え、悔しさと情け […]
診療室の床に置かれた木製の歩行補助具。それを見下ろしながら、彼は小さく息を呑んだ。 「……足に、重さをかけるのが、怖いんス」 彼の右足首は、包帯の上からでもまだ硬さが残っているのがわかる。修復は済んだ。けれど、再断裂への […]
本日の患者様は、グリダニアが誇る精霊評議会の議長殿。三重の幻術皇の一角を担うお方が……書類の角で指を切って来院されました。 ……ええ、はい、確かに切れておりました。それも、紙一重どころか――かすり傷程度。 処置は迅速に行 […]
「戦場で跳躍の最中、着地した瞬間に“ぶちっ”と音がして……そのまま足に力が入らなくなりました」 冒険者仲間に支えられながら診療所に運び込まれたのは、若き竜騎士のヴィナ・ヴィエラ。深藍の髪と、澄んだオッドアイを持つ彼の顔は […]