診療記録005:ひとしずくの蜜、ひとすじの風
- 種族
- エレゼン・フォレスター / 男性 / 83歳
- 職業
- 元養蜂家(引退)
- 主訴
- 朝から起きてこない、心肺停止の可能性
- 診断
- 心肺停止を確認。死後硬直・体温低下から死亡時刻は夜明け前と推定。
- 処置
- 死亡確認および家族への説明。老衰による自然死と判断。
朝、診療所に慌ただしい足音と共に飛び込んできた男性は、息を切らしながら言った。
「父が……朝になっても目を覚まさないんです。体が冷たくて、心臓も……」
私はすぐに往診の支度をし、彼の案内で森の奥にある一軒家へと向かった。
そこには、穏やかな顔で眠るように横たわるひとりの老エレゼンの姿があった。
手足には死後硬直の兆しがあり、体温も大きく低下していた。脈も呼吸もなく、心音も確認されない。
幻術の形式に則り、確認の聖句とともに額へ手をかざす。静かに、静かに、その魂は既に星海へ還ったことを告げていた。
彼は生前、養蜂家として名の知れた人物だった。
野生と共に生き、蜂たちと語らい、彼の作る蜜はグリダニアの市場でも高く評価されていた。
15年前に現役を引退し、仕事は息子へと託した。
それからは庭先で花を育て、昼寝をし、孫のいたずらに笑い声をあげる日々だったという。
その最期も、穏やかだった。
寝間着のまま布団にくるまれており、苦悶の表情は見られない。
「きっと夢の中で、昔世話をした蜂たちとまた会っているのかもしれませんね」
私はそう語りかけ、ご家族に対して老衰による自然死であること、安らかな最期だったことを説明した。
家の外では、ちょうど蜂の羽音が聞こえていた。
彼の遺した花々に群がるその小さな命たちが、どこか名残惜しげに空を舞っていた。
私的記録:
人は土に還り、命は巡る。
この森で、その自然の循環の一部にまたひとつ、小さな欠片が加わった。
彼が遺した蜜の甘さは、きっとこれからも誰かを癒すことだろう。
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