診療記録011:最後の散歩、森の香り 診療記録:終末期ケア
彼が初めてこの診療所に来てから、2週が過ぎた。 疼痛は徐々に強まってきていたが、ケシの実から抽出した鎮痛薬と、処方した鎮静の香煙で、今のところは穏やかに過ごせている。 この日も、私は彼の住まいへと足を運んだ。 山あいの林 […]
彼が初めてこの診療所に来てから、2週が過ぎた。 疼痛は徐々に強まってきていたが、ケシの実から抽出した鎮痛薬と、処方した鎮静の香煙で、今のところは穏やかに過ごせている。 この日も、私は彼の住まいへと足を運んだ。 山あいの林 […]
診断から1週。彼は今のところ、穏やかに過ごせている。 疼痛緩和薬がよく効いており、体を起こして短時間であれば座って会話も可能な状態だ。 食欲はやや落ちているものの、水分は取れており、家族の気遣いによって笑顔も見られた。 […]
木工師として、彼は長くグリダニアの森に生きていた。 森の静寂を好み、樹々の声に耳を傾けるようにして材を選び、手仕事に心を注ぐその背は、決して多くを語らずとも、職人としての誇りを十分に物語っていた。 初めて診療所を訪れたと […]
その日は、朝からずっと診療所の扉が開くことはなかった。 「こんな日もあるんだね」薬品棚に収めた薬瓶のラベルを丁寧に拭きながら、シシスがぽつりと呟く。 「まあ、嵐の前の静けさってやつかもよ。明日になったら、山から落ちたとか […]