診療記録010:木の声を覚えている

種族
ラヴァ・ヴィエラ / 男性 / 41歳
職業
木工師ギルド 職人
経過
診断より1週経過。疼痛は安定傾向。
処置
初期疼痛管理の継続・家族との過ごし方への助言。

診断から1週。彼は今のところ、穏やかに過ごせている。

疼痛緩和薬がよく効いており、体を起こして短時間であれば座って会話も可能な状態だ。
食欲はやや落ちているものの、水分は取れており、家族の気遣いによって笑顔も見られた。

今日は、彼の家に足を運び、経過を観察した。

「このあいだ、娘が昔の木工品を並べてくれたんですよ」

彼は、そう言って机のうえに置かれた木製の鳥や小箱を見せてくれた。
いずれも細工が繊細で、年月のわりに丁寧に手入れされている。

「あの頃は、何も考えずに削っていた。でも、不思議と覚えてるもんだな」

彼は穏やかに笑い、傍らにいた妻がそっとその手に手を重ねた。

「またひとつ、仕上げられるといいな」

その言葉には、願いと諦念が、静かに溶け合っていた。

私は、彼の望む時間を少しでも支えることを、自分の仕事と改めて胸に刻んだ。


私的記録:

過ぎた日々の木片に、温かな想いが宿っている。
手のひらに収まるその作品に、歩んできた年月の静かな声を聴いた。

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