診療記録035:小さな旅立ち、続く絆
朝の診療所は、薬草の匂いより先に布の音がした。包み布を畳む音。替えの肌着を揃える音。小さな荷が、ふたつ分ある音だった。 出産から七日。彼女は椅子に座っていた。動きはまだ慎重だが、もう“恐る恐る”ではない。腕の中のひとりを […]
朝の診療所は、薬草の匂いより先に布の音がした。包み布を畳む音。替えの肌着を揃える音。小さな荷が、ふたつ分ある音だった。 出産から七日。彼女は椅子に座っていた。動きはまだ慎重だが、もう“恐る恐る”ではない。腕の中のひとりを […]
夜半、扉を叩く音がいつもより短く、強かった。開ける前から、呼吸の乱れが聞こえている。 彼女は夫に支えられて入ってきた。寝巻きの裾が急いで羽織った外套から少しのぞいている。歩けてはいる。だが、歩幅は狭い。ひと波くるたび、足 […]
扉が開く前に、ゆっくりした足音がした。急ぐ歩幅ではない。お腹を揺らさないよう、一歩ずつ確かめるような歩き方だった。 入ってきた彼女の肘を、夫が半歩後ろから支えている。妊娠38週。お腹はもう、抱えるというより前へ張り出して […]
妊娠32週。春の足音が聞こえ始めたある日、彼女はいつものように落ち着いた様子で診察室へ入ってきた。しっかりとした足取りながらも、お腹のふくらみは日増しに目立ち、まるで小さなかごを抱えているかのようだった。 「逆子、戻って […]
妊娠26週目。お腹はずいぶんと大きくなり、歩くのも少しずつゆっくりになってきた頃。診察室の椅子に腰かけた彼女は、「最近は、ふたりの動きがよく分かるようになってきました」と微笑んだ。 私はお腹にそっと手を当て、エーテル視で […]
診療所に現れたのは、アウラ・ゼラの女性。角の根元に汗が浮き、歩き方にはどこかぎこちなさがありました。 「月の巡りが来るたびに……下腹と腰が、絞られるように痛むんです」そう言って苦笑する様子は、慣れているようでもあり、どこ […]
本日の来院者は、緊張した面持ちのエレゼン・シェーダー族の女性冒険者でした。彼女の訴えは深刻で、「胎動を感じるのに、妊娠のはずがない」というものでした。 問診を進めると、先日討伐した魔物の放った呪術に巻き込まれ、その日以降 […]
本日は前回の経過観察のための再診。患者は明るい笑顔で診療所を訪れ、今回は夫も同行していた。 「おかげさまで、あれからすっかり痛みもなくなりました。でも……この人がどうしても一緒に来たいって言い張って……」そう言って少し照 […]
「少しお腹が下がったような気がして……」彼女がそう言って来院したのは、妊娠20週目に入ったばかりの頃だった。触診とエーテル視を丁寧に行う中で、私は眉をひそめた。胎動の位置がやや高く、骨盤のほうに頭部が来ていない。 さらに […]
本日は、妊娠8週で妊娠が判明した患者の定期検診。妊娠12週となり、つわりによる食欲低下や倦怠感を訴えて来院。 脈診・腹部の触診・エーテル視いずれにおいても、胎児の成育は良好。つわり症状も過度なものではなく、妊娠初期に見ら […]