診療記録034:ふたりの芽吹き、四つの祝い
- 種族
- ララフェル・プレーンフォーク / 女性 / 32歳
- 職業
- 農婦
- 配偶者
- ララフェル・プレーンフォーク / 男性 / 29歳
- 主訴
- 陣痛・分娩(妊娠39週)
- 診断
- 正常分娩。双胎ともに無事出生。第一児・男児、第二児・女児。
- 処置
- 分娩介助・新生児処置・母体回復観察。母児ともに安定。
夜半、扉を叩く音がいつもより短く、強かった。
開ける前から、呼吸の乱れが聞こえている。
彼女は夫に支えられて入ってきた。寝巻きの裾が急いで羽織った外套から少しのぞいている。
歩けてはいる。だが、歩幅は狭い。ひと波くるたび、足が止まる。
夫の手は背に回ったまま離れない。
「間隔は?」
「……さっきから、短いです」
「破水はまだ」
夫が先に答える。
「ありません。出血も、少しだけです」
分娩室へ移す。シシスが湯と布を揃え、私は腹の張りと児の位置を確認した。
第一児は頭位。下り方も悪くない。
第二児も心音は落ち着いている。だが、出てくる順番になれば、素直に済むとは限らない。
彼女は分娩台の縁を掴み、痛みの合間だけ目を開けた。
夫がその手を取る。
前に言った冗談を、思い出したのだろう。私は一度だけ彼の手元を見た。まだ骨は折れていない。
「本当に、そばで?」
問いかけると、彼は頷いた。
「それしかできませんから」
「充分です」
シシスが先に言って、次の布を差し出した。
第一児は比較的まっすぐだった。
痛みがひとつ大きく来て、彼女が息を詰め、押し出す。
短い産声が上がる。男児。
部屋の空気がわずかに緩んだが、終わりではない。
「まだです。次、行きます」
第二児は少しだけ時間がかかった。
下りてくる向きが安定しない。母体の負担も増える。
私は手順を短く刻んだ。
「呼吸、合わせて。今は力まない。……次で」
シシスが額の汗を拭い、夫は何も言わず手を支え続ける。
握られた指先が白くなる。赤くなっているのは、もう夫の手のほうだった。
次の波で、彼女は声を漏らした。
叫びというより、腹の底から絞る音だった。
そのまま、ふたつ目の小さな身体がこの世へ滑り出る。
今度の産声は、最初より静かだった。
細く、けれど確かに途切れない。
女児。
妊娠中、反応が控えめだった子だ。
音だけを聞けば、むしろよく似合う泣き方だった。
「……いますね」
夫が言った。誰に向けた言葉でもなかった。
「いますよ。ふたりとも」
私が返すと、彼はそこでようやく息を吐いた。
新生児の処置を終え、母体の出血と回復を確認する。
大きな破綻はない。ここからは戻す仕事だ。
彼女は疲れ切った顔のまま、それでも子どもたちのほうを見た。
夫は目元を押さえもしないで、何度も「ありがとう」とだけ繰り返している。
手は真っ赤だった。
骨は、たぶん大丈夫だ。
そのときシシスが記録を見返して、小さく顔を上げた。
「先生。これ、今日……」
私も気づく。
母の誕生日。父の誕生日。
そして、ふたりの出生の日。
同じ日付の中に、祝いが四つ並んだ。
誰も大声ではしゃがなかった。
ただ、分娩室に残っていた緊張が、ようやく静かにほどけた。
私的記録:
命は、生まれる瞬間だけで出来上がるわけじゃない。
迎える手、支える声、離さなかった指先。
そういう手順の先に、産声は置かれる。
今夜は、その順番がとてもきれいだった。
3件のコメント
ついに双子ちゃんが…!!🥹👏👏👏
緊張の場面はついつい息止めて読んじゃいましたね…←
無事にご両親がお子さん達と会えてよかった…☺️
いつもありがとうございます!
緊張の一瞬をちゃんと伝えられてよかったー!
これから大変な子育てが始まる両親に幸あれ
よかった…ほんとうによかった。