診療記録029:震える足取り、駆け出す影

種族
ヴィナ・ヴィエラ / 男性 / 25歳
職業
冒険者
経過
右踵腱断裂に対する組織修復術後。リハビリ一時中断、復帰。
主訴
軽い走行訓練に挑むも、再受傷への恐怖で足が止まる。
処置
短距離でのジョギング開始。精神的フォローを併用。

診療所の裏庭に、木漏れ日の差す小道があった。
今日はそこで、彼に軽い走行訓練を試みてもらうことにした。

杖を手放し、両足で地を踏む。
その姿は一見、元の竜騎士の凛々しさを取り戻したかに見えた。

しかし――。

「……怖い」

一歩目を踏み出した直後、彼は立ち止まった。
右足首に疼痛はない。だが、顔は青ざめ、汗がにじんでいる。

「また切れたら……もう、二度と跳べないかもしれない」
呟きは小さくても、耳に痛いほどの本音だった。

私は静かに答える。
「痛みは身体が教えてくれる危険信号。恐怖は心が知らせる警告。
どちらも無視する必要はありません。ただ――聞き分けて進むことが大切です」

シシスは、相変わらず容赦がない。
「怯えて足を止めるくらいなら、兵舎の雑用でもやってなさい。竜騎士を名乗るなら、震える足ででも前へ出ろ」

彼は顔をしかめ、唇を噛んだ。
だが、仲間のナイトが遠くから手を振り、声を張り上げた。
「走れ!お前の足を、俺たちは待ってる!」

その声に押されるように――彼は再び足を動かした。
最初はぎこちなく、しかし二歩、三歩と進むうちに、風が頬をかすめる。

小さな距離。小さな速度。
それでも彼は、走った。

「……はぁ、はぁ……! 走れた……」
膝に手をつき、息を荒げながらも、彼の顔には久しぶりの笑みが浮かんでいた。


私的記録:

恐怖は決して消えない。
だが、その恐怖を抱いたままでも走り出せると知ったこと――それが、彼にとって最初の勝利だ。
次は、空へ挑む時が来る。

2件のコメント

  1. おれがの より:

    竜騎士さんのお話お待ちしてました!
    怪我の恐怖がトラウマに…🥺
    それでも背を押してくれる仲間がたくさん居てくれてあったかいですね…頑張れ頑張れ…☺️✨

    1. Liesa Clad より:

      いつもありがとう!
      こんなにもいい仲間が帰りを待ってる。折れてる暇はないぞ竜騎士!

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