診療記録017:折れた跳躍、その先に
- 種族
- ヴィナ・ヴィエラ / 男性 / 25歳
- 職業
- 冒険者
- 主訴
- 右足の激痛と歩行困難
- 診断
- 右踵の腱断裂
- 処置
- 患部の固定・治癒魔法による組織修復補助・長期的リハビリ指導
「戦場で跳躍の最中、着地した瞬間に“ぶちっ”と音がして……そのまま足に力が入らなくなりました」
冒険者仲間に支えられながら診療所に運び込まれたのは、若き竜騎士のヴィナ・ヴィエラ。
深藍の髪と、澄んだオッドアイを持つ彼の顔は、不安と痛みに歪んでいた。
触診とエーテル視の結果、右足の腱は完全に断裂していた。
治癒魔法ではある程度の修復は可能だが、完全に元の強度を取り戻すには長期の安静と鍛錬が欠かせない。
「竜騎士は跳べなければ戦えない……俺はもう、空を舞えないんスか」
彼の声は震えていた。
私は首を横に振り、静かに告げる。
「跳躍は“足”だけで行うものではありません。仲間を想う心と、折れない意志があってこそ。
あなたが望むなら、必ず再び跳べるはずです」
シシスは淡々とした口調で補足した。
「リハビリはきついですよ。泣き言を言えば、その分だけ回復は遅れる。
……でも軍医は、泣く兵士を何人も立たせてきました。あなたもそのひとりになるだけです」
厳しい言葉に、彼はしばし黙したのち、小さく笑った。
「……やっぱり竜騎士は、空を諦めちゃいけないッスね」
その後、患部を固定し、霊草から調合した炎症抑制膏を塗布。
松葉杖と特製の歩行補助具を用い、段階的な筋力回復訓練を始めるよう指導した。
私的記録:
跳躍を断たれた竜騎士の心は、容易に折れてしまう。
だが、彼は仲間の言葉と、自らの意志で再び前を向いた。
いつの日か、彼がまた空を裂き、大地を震わせる槍を振るう姿を――私は信じている。
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